大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(ネ)714号 判決

埼玉銀行

事実

控訴人(一審原告、一部勝訴、一部敗訴)株式会社埼玉銀行は請求原因として、一審被告浅見好友は被控訴人浅見仙吉を連帯保証人として控訴人に対し額面金合計三百九十万円の約束手形計四通を振り出したが、これより先き一審被告浅見好友は、控訴人に対し同人の手形上の債務につき百円につき一日金二銭八厘の利息の支払をなすべき旨を約し被控訴人仙吉はその連帯保証をなした。しかるに、右両名は元金及び利息の一部として合計金百七十万三千四百六十八円を支払つたのみであるから、控訴人は右元金残額金二百十九万六千五百三十二円及びこれらに対する完済までの利息損害金の支払を求める、と主張した。

被控訴人浅見仙吉は答弁として、控訴人の主張事実中、一審被告浅見好友が控訴人主張の四通の手形を振り出したことは知らない、その他の事実は全部否認する、と抗争した。

理由

証拠を綜合すると、訴外浅見好友は控訴人主張の四通の手形を振り出したこと及び右各手形には手形保証のための被控訴人名義の記名押印のあることが認められる。

しかして、被控訴人は前記各手形における被控訴人名下の印影が自己の印章によつて顕出せられたものであることを認めて、右各印影は訴外人が被控訴人の印章を盗用して顕出したものであり、被控訴人は右各手形について保証をしたことはないと主張するから、その当否について判断する。証拠を綜合すると、被控訴人は従前材木商を営み、控訴人と金融取引をしていたが、昭和三十年四月その営業を四男である訴外人に譲渡することになつたので、訴外人の営業の円滑な遂行を助ける趣旨で訴外人に対し先に被控訴人が控訴人との金融取引について使用していた印章を預けるとともに、訴外人と控訴人との金融取引に関して振り出す手形につきこの印章を使用して被控訴人に代り手形保証をする権限を与えたこと、及び前認定の手形保証のための被控訴人名義の記名押印は、訴外人がこの権限に基いて行つたものであることが認められる。この点に関し、被控訴人は原審並びに当審における本人尋問で、右記名押印は、訴外人が無権限で行つたものであり、殊にその押印は、被控訴人が自己の住居ではない二男の浅見己之吉方に置いておいた被控訴人の実印を訴外人が盗んで押したものであと供述する。

しかしながら、被控訴人が特別の事情もないのにその実印を子の家とはいえ自己の住居以外の家に置いておいた(本件を通じて被控訴人が特別の事情があつてその実印の保管を巳之吉に依頼していたということを認めるに足りる証拠はない)というようなことはにわかに信じ難いところである。のみならず、これらの供述は仔細に検討してみると、右実印の巳之吉方におけるありかに関する点で微妙な不一致を露呈しているが、このような単純な事実に関してさえも供述が区々であるということは、その供述の不信性を表明するものにほかならないから、右各供述は信用することができない。

よつて被控訴人に対し本件保証債務の履行を求める控訴人の請求は正当として認容すべく、これに反する原判決は不当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例